初代検査官、Max Glomsdaが現代にタイムトリップし、テュフ ラインランドの歴史を旅します。
テュフ ラインランドの150年。DÜVからTÜVへ
「技術とは、人に害を与えるものではなく、人に役立つものである」
これは、テュフ ラインランド設立の基本原則となる技術に対する考え方で、今日でも息づいています。1872年10月31日、当時ドイツで最も産業革命が進んでいたエルバーフェルトとバルメンの地区(現在のヴッパータール)で、繊維メーカーが合同で蒸気ボイラー検査協会を設立しました。蒸気ボイラーの爆発事故を回避するために、協会の技術者達が独立した立場でボイラー試験を開始しました。ラインランド地方初の蒸気ボイラー検査協会(DÜV)は、今日世界有数の第三者検査機関であるテュフ ラインランドに成長し、2022年に創立150周年を迎えました。
国の検査機関ではなく独立した協会による蒸気ボイラー試験は、当時としては画期的なことでした。国の代わりにボイラー試験を始めるのですが、次第にその効果が事故発生率の減少という形で現れてきます。ボイラー設備が急増したにもかかわらず、事故数が激減したのです。例えば、1879年にドイツの蒸気ボイラー6万台から発生した爆発事故は18件であったのに対し、20年後には2倍以上の14万台に増加したにもかかわらず、爆発事故は14件でした。検査協会は、試験技術の質を上げ、技術革新によってもたらされる経済的利益に大きく貢献したのです。
人と技術の相互作用
蒸気ボイラーや材料の試験も重要でしたが、専門家の育成も検査協会の成長には不可欠でした。なぜなら工場での事故の原因として最も多いのが「人的ミス」だったからです。そこで「人と技術が適切に相互作用することで安全を確保できる」という基本理念のもと、専門学校を設立しました。その専門学校は、現在テュフ ラインランド アカデミーが提供するトレーニングコースの前身となります。
試験範囲の拡大
19世紀から20世紀にかけて工業化が進み、科学における発明も技術の進歩を加速させました。そして、技術の進歩に伴って検査協会の試験範囲も急速に拡大しました。例えば、機器、製品、電気機器などは種類が豊富になり、その結果政府当局の評価基準に従って試験しなければならない項目も増えました。
検査協会は蒸気ボイラーの試験だけでなく、エレベーター、圧力容器、発電所、タンク設備、機械、そして20世紀に入ってからは、自動車の試験など幅広い業界の試験を担うようになります。これらの試験は、今日に至るまでテュフ ラインランドの活動の重要な部分を占めています。
長年にわたる組織の変遷
地方機関としてスタートした蒸気ボイラー検査協会は、その後組織の統合などの変遷をたどります。1877年、蒸気ボイラー業者80人が集まり、「Rheinischer Dampfkessel-Überwachungsverein(Cologne-Düsseldorf Rhineland Steam Boiler Monitoring Association、DÜV)」が設立されました。1936年、ナチス政権による国家の集中管理下に置かれた蒸気ボイラー検査協会は、略して「Technische Überwachungsvereine」(技術検査協会、TÜV)と改称され、「Rheinischer DÜV」は「TÜV Köln」となりました。第二次世界大戦後TÜVの各組織は運営権を再び取り戻し、1962年にTÜV Rheinland e.V.が設立されました。当時は6つの拠点に従業員600人が勤務していました。
協会の歴史の中でもう一つの重要な変換点は、ドイツ全土にネットワークを拡大したことです。さらに、1997年のTÜV Berlin-BrandenburgとTÜV Rheinlandの合併、2003年のTÜV PfalzのTÜV Rheinlandへの合併が画期的な出来事となりました。さらに2005年にはバイエルン州のLandesgewerbeanstalt(LGA)を買収し、ドイツにおける試験市場の統合に向けた大きな一歩を踏み出し、2013年には車両試験を手掛けるFSPグループを統合しました。
グローバル化が試験ビジネスに与えた影響
1970年にはドイツ国外に初の子会社を設立し、徐々に国際化が進みます。これは、ドイツ企業の新市場への事業拡大や、世界のバリューチェーンに支えられた経済によって発展しました。1993年、テュフ ラインランドは総売上高の約12%がドイツ国外で、ドイツ国外に約700名の従業員を擁していました。現在では、従業員の60%はドイツ国外で働いており、ドイツ国外の売上高が総売上高の約47%を占めます。ドイツ国外の拠点として重要な地域は主にアジアに集中しており、特に製品試験が大きな比重を占めています。
テュフ ラインランドは1993年に新しい企業形態を導入し、当時の名称であるTÜV Rheinland e.V.は、自動車やその他の車両、蒸気ボイラーやエレベーターの検査など国家からの委託事業を行っています。それ以外の事業(ドイツ国外を含む)は、新たに設立された株式会社により運営され、その全株式を協会が保有し現在に至っています。
試験市場の規制緩和
この頃、ドイツを含め各国で試験ビジネスは新しい局面を迎えます。検査協会の統合と同時に、試験市場の規制緩和が徐々に進みました。これは、自動車の定期技術検査(一般検査)に影響を与えました。また、2002年にドイツ産業安全衛生条例が公布され、「検査を必要とする工場や機械」が含まれるようになったことも大きなきっかけでした。それ以来、蒸気ボイラーシステムや圧力容器、ガソリンスタンドやリフトシステムなどの試験はドイツ全土で自由化され、TUVのようなさまざまな試験所で行えるようになりました。もはやテュフだけでなく、認定検査機関も試験できるようになったのです。
デジタル化の波が投資を促進
テュフ ラインランドの試験ビジネスは、デジタル化の波により拡張しています。ネットワークや情報システムの保護を強化し、ネットワーク化が進む自動車、産業プラント、消費者向け製品をサイバー攻撃から守るサービスも開始しました。さらに、デジタルソリューションをうまく活用した試験サービスを強化しています。
2010年から自社のITインフラに大規模な投資を行い、最新のITセキュリティソリューションをお客様に提供できるようアップグレードしました。また、世界各地で試験所の新設や増築、建物の省エネ改修、環境保護と持続可能性の向上への投資も行っています。2016年から2020年まで4年間の投資額は、4億ユーロ強にのぼりました。
今後人々はますます安全性と品質への要求を高めるであろうと予想しています。その将来の要求に対しても、テュフ ラインランドは十分な準備を整えていると自負しています。
1872 | エルバーフェルト地区とバルメン地区で「蒸気ボイラー検査協会」として設立。 |
1877 | 合併により、ラインランド・スチームボイラー検査協会(DÜV)が設立される。 |
1904 | 車両検査開始 |
1936 | Technischer Überwachungsverein Köln」(ケルン技術検査協会、TÜV)に改称。 |
1962 | TÜV Rheinland e.V.に社名変更。ラインランド地方に6拠点、従業員600名 |
1970 | ドイツ国外に初の子会社を設立 |
1978 | (日本)日本駐在員事務所を開設 |
1983 | (日本)ラインランド技術検査協会ジャパン株式会社として法人化 |
1992 | (日本)ラインランド技検株式会社に社名変更 |
1993 | テュフ ラインランド AG(TÜV Rheinland AG)を設立 |
1997 | テュフ ベルリン ブランデンブルクとテュフ ラインランドが合併し、テュフ ラインランド ベルリン ブランデンブルクe.V.となる。 |
2000 | (日本)テュフ ラインランド ジャパン株式会社に社名変更 |
2003 | TÜV Pfalzと合併し、TÜV Rheinland Berlin Brandenburg Pfalz e.V.となる。 |
2005 | LGAとハンガリーの大手試験機関2社を統合 |
2006 | 国連グローバル・コンパクトへの加盟、ブラジルの大手試験機関2社の統合 |
2007 | オーストラリアで創業、全大陸に展開 |
2010 | Gerisの買収により、テュフ ラインランドはブラジル最大の第三者検査機関となる |
2012 | テュフ ラインランドの従業員の60%はドイツ国外で勤務 |
2014 | ITセキュリティ分野の企業買収により、情報セキュリティに関する世界最大級の独立試験サービスプロバイダーへ |
2017 | ケルンのグループ本社用地の拡張とエネルギー効率の改修工事を完了(約7,000万ユーロを投資) |
2019 | スペインのセルティオ社を買収し、スペインにおける車検の試験所ネットワークを強化 |
2021 | 中国の太倉にオフィスと試験所を新設 |
2022 | 設立150周年を迎える |
Last update: December 2021